眼科学教室について

研究内容

1 緑内障

1. 網膜神経節細胞死のメカニズムとその抑制

緑内障は種々の危険因子が複雑に絡み合った多因子疾患であるため、各原因を解明し排除することは個々の疾患に対しては不可能に近く、現状では最大の危険因子である眼圧に対しての眼圧下降治療が行われているにすぎません。そこで緑内障は最終的な病態が網膜神経節細胞(RGC)の細胞死ですから、神経細胞死を抑える、いわゆる神経保護が、種々の一次因子に対処するよりも包括的な効率よい治療につながる可能性があります。そこで、眼圧や、低酸素(虚血)、酸化ストレス、神経毒性因子による細胞障害に対してどのように細胞死が起こるかを解明し、治療のターゲットを探っています。具体的には動物のRGCの培養系を用いて検討を行っています。

2. グリア細胞と神経細胞の相互作用

網膜、視神経は緑内障性神経障害の場ですが、神経だけでなく取り巻くグリア細胞に保護あるいは障害を受けている可能性があります。そこで、各種グリア細胞の培養系を用いて、緑内障性障害に対するグリア細胞の反応を検討し、2時的な神経細胞への影響を検討しています。

3. 薬物の眼圧下降作用機序の解明とその評価

眼圧下降薬の多くはその詳細な眼圧下降機序が判明していません。そこで我々はマウスの眼圧評価系を開発し、各種遺伝子変異マウスを用いて薬剤作用機序を探り、さらにサルを用いた眼圧下降評価を行い、判明した作用機序から新規の薬剤の開発に向けて取り組んでいます。

4. 薬物の神経保護作用の機序の解明とその評価

同じく神経保護薬剤の開発とその応用をマウスやラットモデルを用いて検討しています。我々は慢性高眼圧モデルマウスを作製しており、視神経障害を経時的に評価できるような実験系を開発しました。培養系で神経保護薬として将来性のある薬剤の生体内での評価をめざしています。

5. 血流改善効果のある薬物の評価

緑内障では眼圧とともに神経障害因子として血流障害があげられます。ヒトはもちろんサルやウサギを用いた眼底血流評価法を確立しており、現在、使用されている点眼薬や、循環器系の薬剤による眼血流改善効果を検討し、眼圧以外に神経を保護できる薬物を探索しています。

6. マウスを用いた緑内障研究

マウスは小さな眼の動物ですが、幅広く疾患モデル動物として利用され、遺伝的経済的にも優れており、その有用性は多大です。我々は世界的の最先端を行くマウスを使った緑内障基礎研究の実験系を確立しており、上記の様々な緑内障基礎研究に役立てています。

2 角 膜

1. 培養輪部上皮、培養口腔粘膜上皮を用いた眼表面再生

アルカリ外傷、酸外傷、スティーブンスジョンソン症候群などの重篤な眼表面疾患では、これまでの通常の角膜移植の方法で視力を回復することができませんでした。東大角膜グループでは、患者さん本人の角膜や口腔粘膜の細胞を採取し、それを培養という方法で量を増やし、傷害された眼表面に戻すことで、拒絶反応がなく、透明な角膜を回復する手術を行っております。

2. 培養角膜内皮細胞を用いた角膜の再生

ヒトの角膜内皮細胞はこれまで培養により増やすことが難しいとされていました。我々のグループでは培養条件を工夫することでヒト角膜内意細胞を培養により増やすことができるようになりました。このヒト角膜内皮細胞をシート状にしたものを兎などの動物に移植し、角膜の透明性を回復するに成功しています。角膜内皮細胞が傷害されたために視力を失っている患者さんはたくさんいらっしゃいます。ごく近い将来に、培養ヒト角膜内皮細胞を用いてこうした患者さんの視力を回復するために、更なる検討を行っております。

3. 角膜移植術の臨床研究

角膜移植術の10年後透明率は73%(当科成績)とかなり良好な成績をこれまでも収めてきましたが、拒絶反応を繰り返し起こすことがある、大きな乱視が残ることがある、術後に角膜の内皮細胞がどんどん減少してしまう、など未解決の問題点が残されています。こうした問題点を解決するために、角膜移植に関するさまざまな切り口からの臨床研究を行っております。

4. 角膜血管新生への新しい治療法の開発

角膜血管新生は角膜上皮幹細胞欠乏症、各種角膜感染症時などに見られ、瞳に及ぶと視力低下の原因となります。その治療としては角膜全域を覆う血管新生に対しては角膜表面全体の再構築が必要ですが、わずかの侵入血管が原因の角膜脂肪変性などに対しては、光凝固による血管閉塞などが試されてきました。こうした血管新生への治療法として、我々は、東京大学工学部と共同して、ポルフィリン誘導体などの光感受性物質をナノミセルに取り込ませ投与することにより、効率よく血管新生部位に集積させ、レーザー照射を行い血管閉塞する方法を開発しつつあります。

3 黄 斑

1. 網膜および脈絡膜血管新生の発症メカニズムの解析

糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの主要失明原因となる眼底疾患の病態には、網膜および脈絡膜の病的血管新生が大きく関与することが分かっています。新しい治療が臨床に応用されていますが、まだ、治療成績は満足できるものではありません。そこで、病的血管新生の発生機構について、ノックアウトマウスなどを用いた分子生物学手法を用いた解析を行うともに、新規薬物療法を確立するために動物モデルを用いた研究を行っています。

2. ナノテクノロジーによるドラッグデリバリーシステム

ナノテクノロジーを用いた脈絡膜新生血管に対する効率的なドラッグデリバリーシステムを開発しています。本システムが、加齢黄斑変性の治療法である光線力学的療法へと応用可能であるか検討しています。また、このシステムが遺伝子治療へ応用可能であるか、まずは、動物モデルを用いて網膜組織に遺伝子導入が可能であるかを検討しています。このシステムで遺伝子導入ができればウィルスを使わない遺伝子導入システムとして将来有望なものとなると考えられます。

3. 網膜の再生医療

網膜色素変性症、加齢黄斑変性等による視機能低下は網膜が傷害されることが原因ですが、臨床的には傷害された網膜を再生する治療法はありません。そこで、成体網膜に存在する網膜幹細胞、骨髄由来細胞など種々の幹細胞に着目し、細胞移植を用いた網膜再生技術が治療に応用できないか、動物モデルでの治療効果を検討しています。また、加齢黄斑変性に対する脈絡膜新生血管抜去術等の手術療法において、網膜色素上皮の傷害は術後の視機能に大きく影響することが分かっています。この傷害された網膜色素上皮を再生するための基礎的研究も行っています。

4 ぶどう膜

ぶどう膜炎に関する研究内容(ぶどう膜外来:蕪城 俊克)

1. ベーチェット病に対する新しい治療法の開発

ベーチェット病は、我が国で多いぶどう膜炎の原因疾患で、強い眼炎症発作を繰り返し、治療が適当でないと失明する事もある難治性の疾患です。2004年にはベーチェット病患者さんを主人公とした映画「解夏(げげ)」が放映され、TVドラマにもなりました。現在は治療薬が進歩して失明の危険は減りましたが、難治性である事は変わりありません。私達は、長年に渡り厚生労働省特定疾患ベーチェット病に関する調査研究班に参加し、この疾患の原因究明及び治療法開発に関わって来ました。近年は、低容量ステロイド持続内服療法が、活動性の高いベーチェット病の眼発作減少、発作の程度の軽減、視力予後の改善に役立つ事を報告しています。その他、新しい治療薬として抗TNF-alpha抗体療法、ステロイド眼内インプラント製剤埋植療法の治験に参加しています。さらに、ステロイド徐放製剤のテノン嚢下注射や硝子体内注射による治療も行っています。

2. サルコイドーシスぶどう膜炎の診断マーカーの検索

サルコイドーシスは、全身性に肉芽腫を生じる原因不明の疾患で、現在ぶどう膜炎の原因疾患として最も頻度が高いと推定されています。診断には、肉芽腫の病理検査、放射線物質を用いた写真撮影(67Gaシンチグラフィー)、血液検査などが行われます。しかし、病理検査には、気管支鏡(ファイバー・スコープ)を用いた肺生検や皮膚切除により組織を採取する必要があります。また、放射線物質を用いた検査は、若い患者さんには受け入れられにくいのが現状です。私達は、この様な負担の大きい検査を行わなくともサルコイドーシスの診断が出来る方法を開発すべく、サルコイドーシスの患者さんで特異的に増加するタンパク質に目を付け、研究を行っています。

3. マウス実験的ぶどう膜炎モデルを用いた炎症細胞遊走因子(ケモカイン)の役割の検討

ケモカインは、白血球特異的遊走因子で、リンパ球、好中球、マクロファージなどの炎症性細胞を血管内から炎症局所に遊走させる際に重要なサイトカインです。現在、ケモカインをターゲットとしたさまざまな炎症性疾患に対する治療法の開発が進められています。私達は、ぶどう膜炎の患者さんで眼炎症発作時にIL-8, MCP-1, IP-10などのケモカインが血中で増加する事を明らかにしてきました。そして現在、マウス実験的ぶどう膜炎モデルも用いてケモカイン及びケモカイン受容体の発現、及びその阻害による治療効果を明らかにすべく、研究を行っています。

5 糖尿病網膜症

1. 糖尿病網膜症の画像に対する自動解析と遠隔診療

近年になりコンピューター技術の進歩および眼底画像のデジタル化に伴い、眼底画像の自動解析やインターネット回線を用いた遠隔診療が可能になってきている。当教室では糖尿病網膜症の画像を遠隔診療により、効率的に診断されるシステムを構築し、現在では眼科医が不足している海外で応用されるようになってきている。また、眼底検診において糖尿病網膜症の初期病変を見落とすことのないような自動解析システムの開発を工学メーカーとの共同研究にて行っており、先に開発されている諸外国の機種よりもより高い精度の結果を得ている.そのため、近い将来は検診の場における各種眼底カメラに附属するシステムとして注目されている。

2. 糖尿病による前眼部病変の解明と治療法の開発

糖尿病による眼合併症として糖尿病網膜症が有名であるが、各種前眼部病変も発症し、視機能に影響を与えることもある。以前では糖尿病を合併する白内障手術では、血糖コントロールが良好になってから行い、場合によっては眼内レンズの挿入を諦めざるを得ないこともあったが,現在では特に術前の血糖コントロールが極端に悪い場合を除いて、非糖尿病患者と同様な術式で行うことができるようになってきた。しかし、術後の炎症の遷延、後発白内障や前嚢収縮など糖尿病眼でより強く見られる合併症に悩まされることもある。そこで我々はそのような合併症を軽減させるための薬剤や眼内レンズの開発に取り組んできた.その結果、 進歩し尽くされたと考えられている白内障手術であるが、現在までに糖尿病眼の白内障手術で使用すべき眼内レンズや薬剤が明らかにしつつあり、さらに糖尿病眼での合併症をすくなくすべく研究を行っている。